Swallow tale
この作品は「幸福な王子」をモチーフに書いたものです。
ネタバレも含みますので知らない方は先に原作を読むことをおすすめします。
10-20分ほどで読めるかと思います。
ツバメは思いました。
もう王子の目は見えなくなったのだから、私が「この街のみんなは幸せになりました」と伝えたら、王子は満足して再び「幸福な王子」として過ごし、私は南へ飛んで冬を越して、またあたたかくなったら王子に会いに戻ってきて、また旅の中で見てきたものを楽しくおしゃべりして、そしてまた冬がきたら南へ行って、いや今度は違う話が出来るように違うところへ行ったって良い、世界は広い、きっと王子が見たことのないものをいつまでもいつまでも語れることだろう、そしてそれがいつまでも続けば……
でもそれは王子に嘘をつくということです。
王子を騙すということです。
ツバメは考えました。
私にはルビーもサファイアも金箔もない、あるのは翼と目だけ。もし王子が私なら、純粋な心で真実を知りたがる相手には真実を伝えるだろう。自分のために相手を騙すなんてことはしないだろう。
王子は永遠に生き続ける。だからいつか誰かから真実を伝えられ、私を恨むかもしれない。もちろん王子は誰かを恨んだりしない。しかし私に失望はするかもしれない。その失望に私は耐えられるだろうか。王子と違って私の命には限りがある、自分が死ぬときに愛する人を騙したということを後悔するかもしれない。それに、もし真実を告げるなら、それは私の口からでありたい。私は王子の目になると誓ったのだから。私が伝えなくてはならない。私が王子の知りたいことを伝えなくてはいけない。
この命が尽きるまで、せめて王子のように生きたい。
そうツバメは思いました。
そしていつもの場所にいる王子の元を再び目指したのでした。
それからしばらくして、王子の金箔もすべてなくなったころ。
ツバメは相変わらず空を飛んでいました。
街の様子を王子に報告するのが日課になっていたからです。
男の子が元気になったこと、芝居が完成したこと、少女が靴下を買ってもらったこと。
それを聞くと王子は優しく微笑みました。
嘘をつかず醜悪なことや悲惨なこともたくさん伝えました。
それを聞くと王子はまた悲しそうな顔をするのでツバメは胸が苦しくなりました。
ある日、空から白い宝石が降ってきました。
ツバメはなんて綺麗なんだろうと思いました。
ツバメは綺麗な宝石が降り注ぐ空をいつもより速く駆け王子の元を目指しました。
これでみんな幸せになれると思ったからです。
∬:Today's Music...
世界と踊るために必要なもの。
僕は泣きながら町の中央にある高い柱に登った。
掛けた梯子は僕が柱の上に立った途端に誰かに外されてしまった。
選ばれたもの以外が柱に登ることは禁じられているのだ。
その誰かは僕への罰のために梯子を外したのだろう。
だけど、嫌な気持ちにはならなかった。
風が気持ち良かったからだ。
そして街を見渡して気付いた。
もうここは好きな場所ではなくなってしまったと。
でも、なぜ僕は柱に登ったのだろう。
この街に居たくなければ街を出たら良いだけなのに。
総てを洪水が流すまでここで待つか。
それとも、と空を見上げる。
「もう帰ろうか」
太陽に手を伸ばすと指の先が少し溶けた。
まだ許されていないみたいだった。
僕は気付いていた。
この街を汚しているのは僕なのだと。
梯子を外した人は誰かが梯子を見てしまうと
魔が差して登るかもしれないと思い親切心で外したのかもしれない。
伸ばした手を引き寄せて見る。
溶けた指の先はもう元に戻っていた。
僕は練習することにした。
まずはあのころと同じところに立つために。
この街に来た時に思い描いていた「世界」を作れるように。
それにはまず此処から降りるために飛び方を思い出さないと。
∬:Today's Music...